寝湯戦争

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ここは都心から少し離れたスーパー銭湯。地元の愛好者や近場のレジャー施設の帰りに立ち寄る家族連れが憩いを求めて訪れる場所だ。

その中に寝湯、もしくはうたた寝湯というものがある。ここに入る人は大抵気持ちよすぎて知らぬ間に寝てしまうので、いつからかこのように呼ばれている。

この風呂は六つ程度しかなく、人がなかなか入れ替わらないのが困りものだ。子供だって寝っ転がってだらんとしたいのだが、週末の家族サービスで心身困憊した大人たちがそれを許さない。オヤジ寝ることそれすなわち動かぬ岩のごとし、だ。

また、時にオヤジ同士がぶつかり合うこともある。寝湯枠がひとつ空いた時、その枠の正当な後継者がどちらのものかを決めなければいけないときだ。どちらが先に来ていたか、どこが正しい順番待ちの場所か、まぁ争うときに出てくる言葉はこんなところだ。

…いやいや、落ち着こう。寝湯以外にも風呂はあるし、それでは憩う・安らぐというここに来た本来の目的を果たせないではないか。頭に血が上ったら冷めるまで時間がかかるし、それは苦い記憶として後にも残る。

もしかしたら色々な都合で順番待ちしてる時間なんて無いかもしれないけど、そうならそうで次の機会にまた来たらいいじゃないか。家族で銭湯に行く機会がそれほど無いというのであれば、なんとか時間を作って自分一人のときにでもまた来ればいいじゃないか。

…相当勝手なことを言ったけど、子供のそばで変に張り合う父親も、そこに喧嘩腰で挑む相手も、あまり見れたものではないなと思った。

ただ、まだまだ暑いこの季節、気温もほどよく、体を通り過ぎる風が心地よいのでついつい寝湯への思いが高ぶってしまう、そんな気持ちはわからんでもない。